ミシガン大学公共政策大学院留学記: 製薬業界の謎

2009年5月13日水曜日

製薬業界の謎

新型インフルエンザのワクチン開発をすると、季節性インフルエンザのワクチンが不足することは巷でよく言われているが、なぜ供給能力が不足しているのかと疑問に思っていたところ、今週のThe Economistはその原因と解決の方向性について論じていたので(“Preparing for the worse”)、御紹介したい。

  • 新型インフルエンザは、これまでのところ過酷な症状を引き起こしていないようだ。しかし、スペイン風邪が当初は致死性が低かったのに、数か月後に致死性の高いものへと変化したように、今回の新型インフルエンザも致死性の高いものとなる可能性があり、そのための備えとしてワクチン開発が必要。
  • しかし、製薬業界は、資本集約的で、旧来型の技術に頼っているため、すべての供給設備を新型インフルエンザのワクチンの製造に仕向けても、ワクチンが不足する見込み。
  • 一方、新型インフルエンザのワクチン製造にはリスクが存在。ひとつは、新型インフルエンザのワクチンを製造することで、季節性インフルエンザのワクチンが不足し、脆弱な人々の死者が増加する危険性(毎年、全世界で約50万人が季節性インフルエンザによりで死亡)。もうひとつは、新型インフルエンザが流行せず、ワクチン製造が無駄に終わる危険性。
  • 問題の核心は、鶏卵によるワクチン製造には4~6か月の期間が必要であり、需要の変化に柔軟に対応できないこと。革新的な技術による解決方法が2つありうる。ひとつは、細胞によるワクチン製造をすることで、早期かつ大量に製造する方法。もうひとつは、アジュバント(ワクチンと共に投与する免疫を高める試薬)を用いて、ワクチンの必要量を抑える方法。WHOはこれらの方法を危険な”leap of faith”と断じるが、危機がさし迫れば、必要なものとなるだろう。

鶏卵によるワクチン製造に時間がかかるため、需要に応じた供給が行えないというのが理由のようだ。製薬会社が設備規模を現在以上に大きくして対応するという方法もあると思うが、年によりワクチン必要量が変化することから、設備投資が無駄になる可能性があり、経済合理性の観点から設備拡大をしていない可能性がある。

そうだとすれば、製薬会社は、なぜ革新的な技術によらず、旧来型の技術によるワクチン製造を現在まで行っているのだろう。全くの門外漢なので、結論はよくわからないが、革新的な技術では、安全性に問題があり、その克服のための研究開発に膨大な費用が必要であるため、製薬会社の経済合理性に反しているからだろうか。もしそうであれば、特許制度によるレントの配分で問題解決がされるはずであるが…。

ここまで考えてみて、この問題は、AMC(Advanced Market Commitment)が解決しようとしている問題と一緒なのではないかという感じがしてきた。AMCとは、開発援助政策の革新的手法として提唱されているもので、政府が事前にワクチンの一定価格・一定数量以上の購入を約束することで、製薬会社にワクチンの研究開発を促すというもの。製薬会社がマラリアなどのワクチンを研究開発しても、利用者が貧困層の多いアフリカ地域に集中しているため、将来一定以上の利益が得られるかが不透明である。そこで、その不透明性を先進国政府が取り除くことでワクチンの研究開発を促進し、保健分野における援助を行うのである。

この政策のアナロジーで、特許制度によるレントの配分では将来収益に関する不透明性が存在するために、なかなか研究開発が進まないというところなのだろうか。製薬業界の謎はいまだ謎である。

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