ミシガン大学公共政策大学院留学記: デカップリング論の再来?

2009年5月25日月曜日

デカップリング論の再来?

サブプライム問題が顕在化した2007年に一世を風靡したデカップリング論。「アジアを中心とする新興市場国はアメリカの景気後退の影響を受けず、力強い成長を続ける」と言われていたが、実際は貿易の縮小や資金の引上げを通じて新興市場国は景気後退に追い込まれた。こうしてデカップリング論は現在鳴りを潜めているが、今週のThe Economistがデカップリング論の再来について論じていた("Decoupling 2.0")。要旨は以下のとおり。

  • アメリカは依然景気回復に至っていないが、中国は数か月前まで疑問視されていた8%成長以上の成長が見込まれている。また、ブラジルをはじめコモディティ輸出国の経済見通しが改善。
  • しかし、順調な新興市場国でさえ、経済成長のスピードが以前より減速しているのは事実。また、海外から大量の資金借入をしていた東欧諸国や、メキシコをはじめとするアメリカ経済と密接な関係を持っている国々、輸出依存の国々は、程度の差こそあれ、景気後退に苦しむだろう。Decoupling 2.0はごくごく限られた現象。
  • この背景には、巨大な新興市場国が世間で言われているほどアメリカの消費に依存していないことと、景気後退に対して十分な政策対応をする能力と意思があったことがある。
  • 大胆な政策対応が景気回復を早めたのは事実だが、長期にわたる回復を保証するものではない。デカップリング論はまだ生きているが、巨大な新興市場国の持続的な繁栄は既定事実であるということを意味しない。

ここでは、「巨大な新興市場国」("the biggest emerging economies")と一般論で論じているが、念頭にあるのは当然中国だろうし、実際にこれに当てはまるのは中国しか存在しないのではないだろうか。そうであるとするならば、これはDecoupling 2.0として論じられるというよりは、中国経済が世界経済の中で一つの極として華々しくデビューしたと見る方が自然だと思う。

中国経済が世界経済の牽引役としての役割を担い始めたのは事実であり、アジア域内の貿易において中国は相当なシェアを持っている。中国経済が傾けば、その他のアジア諸国が恐慌に陥ってしまうだろう。世界経済という観点からも、アジア経済という観点からも、中国経済の地位はそこまで上昇しているのである。日本経済にとっても、中国の順調な経済発展は必要不可欠。

しかし、記事の指摘にもあるとおり、現在は大胆な政策対応で短期的に回復を下支えしているに過ぎず、長期的な経済成長に向けて中国経済の構造改革が行われることが必須。具体的には、社会保障制度改革などを通じて、内需拡大を目指すというのが、今後の中国経済にとっての中心課題となっていくのだろう。

話が逸れてしまったが、僕自身はデカップリング論を支持しない。あくまで、欧米経済とはある程度独立した形で、中国経済が台頭を始めたという認識である。世界経済は今後も相互依存を深めていくだろうが、貿易理論が説くように、それは世界経済の更なる成長の鍵である。しかし、同時に、相互依存の深化は、危機が伝播しやすいというリスクを産み出さざるを得ない。

リスクとリターンは常に表裏一体だ。世界経済は、程度の差こそあれ、既に緊密に連関していて、そこから逃れることなどできないし、もはや後戻りすることもできないということなのだと僕は思う。

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