ミシガン大学公共政策大学院留学記: 金融危機と英米法

2009年8月25日火曜日

金融危機と英米法

オバマ大統領がバーナンキFRB議長の再任を発表した。マーケットや経済学者からは圧倒的な支持を受けているが、議会は一部批判があるのは事実で、上院の承認手続がスムーズにいくことを願うばかり。

金融危機発生以降、毎日TreasuryとFedの動きに注視してきた身としては、政策金利の引き下げだけではなく、市場に直接介入を行うという素早い政策対応に舌を巻く思いであった。当時はそれだけ危機が深刻であったこともあるが、それを割り引いても素晴らしかったの一言に尽きる。市場の直接介入という政策対応を可能にしていたのは、Section 13 (3) of the Federal Reserve Act (注1)。ローン証券の買上げプログラムであるTALF (Term Asset-Backed Securities Loan Facility)もこの条項に基づいている。

将来日本で同じような事態が生じた場合、日銀はFed同様に素早い政策対応ができるだろうか。原典にはあたっていないが、おそらく日銀法においては金融機関を媒介しなければ市場介入ができないはず。日銀にはそこまでの裁量が与えられていないのだ。当然、国会が動けば憲法に反しない限り何でもできるわけだが、一分一秒、刻々と変わり続ける金融市場が大不調を起こした時に、議会ののんびりした議論を待つことはできないのではないか。

この日米の違いには、おそらく中央銀行の与えられた役割の違いに起因しているのだろう。日銀法では物価の安定のみが目的とされているが、Federal Reserve Actでは、物価安定に加えて、雇用の最大化も目的規定に加えられており、Fedに幅広く経済政策を担うことが期待されている。こうした精神がSection 13(3)にも表れているのだろう。まあ、日銀法に同じ規定を導入したとしても、日本の法律の解釈・運用は厳格なので、使われない気がする。そういう意味で、英米法は、少しぐらい法律の解釈を曲げてでも現実問題に対応するという柔軟性があるのだろうか(注2)。大学時代は英米法を勉強していないので、こういう問題意識の下、勉強をしてみるのもいいかなと。


(注1) Section 13 (3) of the Federal Reserve Act
In unusual and exigent circumstances, the Board of Governors of the Federal Reserve System, by the affirmative vote of not less than five members, may authorize any Federal reserve bank, during such periods as the said board may determine, at rates established in accordance with the provisions of section 14, subdivision (d), of this Act, to discount for any individual, partnership, or corporation, notes, drafts, and bills of exchange when such notes, drafts, and bills of exchange are indorsed or otherwise secured to the satisfaction of the Federal Reserve bank (…)

(注2)法律の解釈のルーズさでいえば、Emergency Economic Act of 2008を根拠にTARP (Toxic Asset Relief Program)で金融機関に資本注入したことの方が注目に値する。当法律では不良資産の購入を可能にするだけで、どこにも資本注入の規定が存在しない。たぶん不良資産の定義規定であるSection 3 (9) (B) ”any other financial instrument”の中に株式を含めてしまうという荒業を行っているのだろう。これは「その他条項」でなし崩し的に現実に対応したように見える(なお、ブッシュ政権は法案審議・法律成立直後は当法律に基づく資本注入に含みを残しつつも、否定的な見方を示していたが、金融危機の深刻化に伴い資本注入プログラムを発表することになる)。

Note: Section 3 (9) of the Emergency Economic Act of 2008
The term “troubled assets” means—
(A) residential or commercial mortgages and any securities, obligations, or other instruments that are based on or related to such mortgages, that in each case was originated or issued on or before March 14, 2008, the purchase of which the Secretary determines promotes financial market stability; and
(B) any other financial instrument that the Secretary, after consultation with the Chairman of the Board of Governors of the Federal Reserve System, determines the purchase of which is necessary to promote financial market stability, but only upon transmittal of such determination, in writing, to the appropriate committees of Congress.

4 件のコメント:

  1. 2期目のバーナンキ議長には厳しい課題が待ち受けているようですね。24日の連邦地裁はFRBが緊急資金供給措置などに関する情報開示を拒んだのは不適切と判断したことから非公開を主張する根拠を厳しく追及される可能性が高いでしょう。
    そして、万一FRB敗訴が決まれば金融機関の動揺も大きいでしょう。場合によっては緊急融資を受けるのを辞退することも・・・。真価を問われる2期目になりそうです。

    英語の会話力上達にはカンバセーション・パートナーをさがしてみては。相手は日本語を勉強したい人なら結構いると思うのですが。

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  2. そんな裁判が起きていることを初めて知りました。しかも、ブルームバーグがFOIA (Freedom of Information Act)に基づいて提訴しているとは。米議会の批判も、特定の金融機関救済のためにFedが動いたのではないのかということに一つの焦点があるのは事実ですから、これは今後注目していかなければ。
    ただ、個人的にはFedの主張にも理があるので、法律論を無視すれば、議会に対して守秘義務を課したうえで公開というのが望ましいような気がします。

    カンバセーション・パートナーは前から探しているのですが、先週まで需給ともに少ない状態で決めかねていましたが、今週から学生がアナーバーに戻ってきているので、そろそろ本腰を入れて探してみようと思います。

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  3. こんにちは。
    エントリとは関係ないですが、カンバセーションパートナーの話題がありましたので、自分が受けたアドバイスをご紹介します。

    日本文学や日本史などを専攻している「大学院生」を選ぶのがベストだというのが、私の英語の先生@スタンフォードのアドバイスでした。その理由は、
    ・ そもそも日本に対する興味の度合が最も高いのでギブアンドテイクが非常に成立しやすいこと
    ・ アカデミックなトレーニングを受けているので、こちらが書いた英語の学術論文のチェックをしてもらえること(学部生だとここが弱い)
    ・ お互いに高いレベルの外国語を勉強していて、共感できる

    ということでした。では、そのような学生をどのように見つけるかという点ですが、おそらくミシガンにもAdvanced Japanese Classのような、ハイレベルな日本語の授業があると思いますので、その先生(日本人)にビラを配ってもらうというのが一番いいやり方だと思います。僕はこの方法で、非常に素晴らしい方と知り合うことができました。

    ご参考までに。

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  4. >knjさん
    なるほど。大学院生のハイレベルな日本語のクラスでビラを配ってもらうという方法もあるのですね。確かに学部生だとライティングが若干弱いのは事実でしょうから、大学院生の方が会話だけでなく、ライティングのチェックをしてもらえる分お得ですね。

    むしろ少し懸念しているのは、相手が日本の古典に異常な関心があったり、アニメオタクやジャニーズオタクだったりすると、むしろ日本人である僕が話についていけなくて、結構大変なのかなという感じがします。古典とか歴史とかアメリカ人よりも疎いというのは、それはそれで恥ずかしいことなので、これを機に勉強するというのもありなのですが。

    アドバイスどうもありがとうございました!!

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